ザンちゃんのブログ 東雲家 執事服

 初が言う。
「キヨテル、仕立屋さんが来たからおいで。」
「えっ……。」
「ま、とりあえずついて来て。」
 初はキヨテルの手を引き、仕立屋を待たせている部屋へ向かって歩き出す。「僕さ、キヨテルに執事になって貰いたいんだ。」
「はい?」
 キヨテルがポカンとしている。
「アンドロイドは労働の義務があるけど、何も、設定通りに教師にならないといけないわけじゃないよね。教師だと拘束時間が長くてつまらないから、うちで働けばいいと思って。何がいいかなって考えたんだけど、キヨテルが執事服を着ているところが見たいから、執事見習いになって貰うことにしたよ。」
「……それなら、マスターがその姿を見たい時にだけ着ればいいでしょう? 僕は小学校の教師になりたいです。その為に、頑張って勉強したんです。」
「小学校教師は、沢山の科目を教えないといけないから、その分、勉強が大変なんだっけ? キヨテルの努力を無駄にするのは忍びないけれど……。マスターの言うことは絶対だよ。」
「そんな……。どうしてマスターは酷いことばかり言ったり、したりするんですか……。そんなに僕が嫌いなんですか……。」
 キヨテルがポロポロと涙を零しはじめたのを見て、初は慌てて彼を抱き寄せた。
「違うよ。むしろ、好きだから側に居て欲しいんだよ。そうじゃなきゃ、僕の側に居られる執事になってなんて言わない。ね、分かってよ。」
 初は手を伸ばして、キヨテルの涙を拭う。「キヨテルの方が小さかったら、舐めとってあげるのに。背が低いのを気にしたことって今までなかったけど、今日はちょっと悔しいかも。」
「マスター……。分かりました。執事になります……。」
 キヨテルが切ない顔で言った。


「遅くなってご免ねー。キヨテルがちょっとごねちゃって。」
「いいえ。初様。」
 仕立屋は初ににっこり笑いかけた後、キヨテルを訝しげな顔で見た。
「失礼ですけど、彼、本当にアンドロイドなんですか? メイドロボットならもっと無機質ですし、人間にしか見えませんけど……。」
「ボーカロイドは感情豊かに歌うために、リアルな感情を持たせてあるんだって。泣いたり笑ったり、我が儘言ったりするし、僕も時々、キヨテルがロボットだって忘れちゃうくらいなんだ。」
「はあ、それで……。あ、感心してる場合ではなかったわ。キヨテルさん、服を脱いで下さい。」
 仕立屋が言うと、キヨテルの顔が赤くなった。
「ど・どうしてですか……?」
「ヌードサイズを測った方が、より正確ですから。……照れたりするなんて、ほんと人間みたい。」
 仕立屋は物珍しそうな顔で見ている。
「はい……。」
 キヨテルが服を脱いだ。
「お腹と背中に溝、首に穴が……。人間にしか見えない外見なのに、こう、いかにもロボットですっていう証拠を見せられると、なんだか不気味ね。」
「……。」
「気を悪くしたかしら。」
「いえ……。わざわざ、オーダーメイドの服でなくたって、市販品でいいのにと思っただけです……。」
「何でー?」
 ソファに座って採寸を眺めていた初は口を挟んだ。
「だって、アンドロイドの僕に、高級品を着せなくたって。豚に真珠、猫に小判です。違いなんか分かりません。」
「うーん。キヨテルに分からなくても、見る人が見れば分かるし、何より、僕が嫌だもん。」
「マスターって、あんまりそうは見えませんけど、やっぱりお金持ちのお坊ちゃまなんですね……。」
「お金持ちがお金を使わないでどうするの。経済が回らないよ。」
「……はぁ。なんか壮大なんですね……。」
 キヨテルがぼんやりしている。冗談だったのだが、通じなかったようだ。初は苦笑する。


 暫く経って、執事服が出来た。キヨテルは東雲家の執事に着方を教えて貰ったようで、きちんと着ていた。
「わー、理想通り。凄く素敵。キヨテル連れて、出かけよっかな~♪」
「なんか、やっぱり馬子にも衣装というか……。しっくりきません。」
「そのうち慣れるでしょ。」
「だと良いんですけど……。」
「もっと自信持ちなよー。とてもいいってば。」
「は・はい……。」
 それでも、キヨテルは何処か自信がなさそうだった。早く慣れてくれると良いけど……と初は微笑みながら思った。



14年9月1日
★★★★★★★★★★★★★★★★★★
 髪の毛をとかす話より前のエピだし、3話進めて、書こうかと思ったけど、お風呂場でのエロシーンを書くのがめんどくてw
 採寸している最中に、やっぱり執事なんて嫌です、教師になりたいですって言って、初ちゃんにぶたれるシーンを書こうかと思ったけど、どうしようか悩み中。いや、東雲家の初のスパシーンになるかどうかでちょっと変わるし。お仕置きは本編進めてからにしようかな。