ザンちゃんのブログ 師匠と弟子 番外 初めてのお仕置き

 ※勇者が初めてお仕置きした話とマーフリナの葛藤。


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 勇者が共通の財布を確認すると、少し減っていた。ミスヴィス達に、疑いたくはないが……と申し訳なさそうに聞く。
 ミスヴィスは、たまには冒険に関係の無い個人的に欲しい物を買いたかったと言い出す。皆で稼いだお金なんだから、別に良いでしょと開き直る。
「それなら言ってくれれば良かったのに。次はミスヴィスの新しい杖を買うつもりでいたのに、勝手なことを。」
「だって……。」
 ミスヴィスは俯いた。
「今のやり方に不満があるなら、お金を皆で分けて、それぞれで管理するやり方に戻してもいいんだ。その代わり、武器・防具は自分で買ってくれ。それか、ミスヴィスが全部管理するとか。」
「う……、そ・それは……。」
 そんな高度なことが出来るのなら、ミスヴィスは財布からお金を盗んでいないのである。
「等分しての分配は上手く行かなかったから、今のやり方になったんですよね。」
 マーフリナが言う。上手く行かなかった原因はミスヴィスの無駄遣いが原因だったのだが、そこには触れない。マーフリナの優しさに、ミスヴィスは申し訳ない気持ちが強くなった。
「だけど、ミスヴィスがそれじゃ不満みたいだし。」
「だ・だって……。お金があったら欲しい物を買いたくなるんだもん。」
 装備品の重要性はミスヴィスにだって充分に分かっている。装備品が良くなれば、それだけモンスターとの戦いも楽になるからだ。
「買うなとは言わない。ただ、盗みみたいなことをされると……。」
 勇者は溜め息をつく。「マーフリナ。悪いけど、ちょっと散歩でもしてきてくれないか。ミスヴィスとじっくり話し合いたい。」
「はい。」
 マーフリナが素直に出て行った。
「俺に不満があるのか? それとも頼み辛い雰囲気でもあるのか? 改善出来る所があるなら、努力するから言って欲しい。」
 勇者はリーダーではあるが、それを笠に着て威張ったりはしない。嬉しいが、こういう時は反論しにくい。横暴な人なら、思う存分我が儘が言えるのに……とミスヴィスは都合のいいことを考えていた。本当にそんな人だったら、絶対に嫌なのに。
「勇者君に不満なんてないよ……。ただ、後ろめたいから盗んじゃっただけ……。」
「後ろめたい?」
「だって、勇者君もマーフリナも、個人的な買い物なんて殆どしないじゃん。なのに、あたしだけアレもコレもって言い辛いっていうか……。皆で頑張ってモンスターと戦ったりして得たお金なのに、わたしだけ良い思いしたら……。」
 二人とも精神的に大人だから、絶対に責めることも顔に出すこともしないだろう。だが、面白くない気持ちは持つ筈なのだ。
「気持ちは分かるけど。でも、盗んだら、もっと気まずい状況になるとは思わなかったのか?」
「思ったけど……。」
「自分は悪いって自覚はあるんだ。」
「あるけど。でも……。」
 ミスヴィスが俯く。
「どうしたらいいんだろうな。ミスヴィスだけお小遣い制にでもすればいいんだろうか。」
「う……。」
「さっきも言ったけど、ミスヴィスの気持ちは分かるんだ。クロートゥルに言われたことあるけど、まだ俺等は10代じゃん。皆は毎日楽しく生きてて……。勿論、モンスターの脅威はあるし、楽なことばかりじゃ無い。だからこそ、俺達が頑張ってるわけだけど。」
「そうなんだよね。時々、皆が羨ましくなるよ。あたしだって、可愛い服着たり、お洒落したりしたいよ。モンスターと戦わなくて良い日々がくれば……。」
「だけど、誰かが魔王を倒さなきゃそんな日は来ない。俺達はモンスターに滅ぼされた村も見た。最前線で戦ってる兵士を支える家族も見た。もし俺達が、皆のように戦う力の無い一般人だったら……。」
「殺されるか、祈るしか無いよね……。でも、あたし達には戦う力がある。」
「そう。痛い思いや怖い思いはするけど、戦えるんだ。力の無い人達からすれば、俺達は救世主だ。たまには羨まれたり、嫉妬されたり、金の要らない傭兵扱いされたり、嫌な思いもするけどさ。でも、そんな嫌な人達も、モンスターの前では何も出来ない。」
「そうだよね。お洒落は出来ないけど、皆の希望にはなってる。それに、モンスターを前にしても、戦える。」
「俺達は普通の10代の楽しみは味わえないかも知れないけど、代わりにモンスターに怯える日々は送らなくて良いんだ。それは確かだろ。」
「うん。勇者君。有り難う。」
 ミスヴィスが嬉しそうな顔をした後、俯く。「あたし、ほんと悪いことしちゃったよね……。どう償ったらいいんだろう。」
「……俺さ、両親に尻叩かれながら育ったんだ。お前は勇者になるんだからって。怠けてたりするとすぐ叩かれてさ。怖いから頑張って剣振ってた。」
「……え、勇者君が……。ってか真面目な勇者君が怠けるだなんて……。想像付かないよ。」
「それこそ、さっきまでのミスヴィスと同じ。皆は遊び回ってるのに、俺だけ剣の稽古をさせられるんだから、嫌で、嫌で。勇者はかっこいいけど、だからって小さい子供にとって、どっちが大事かって言ったら。」
「遊びたいよね……。」
「ん。まあ、そんなわけで、俺にとって償いって言ったら尻叩きなんだけど。」
「……。」
「やらしい気持ちで言ってると思われても困るけどさ。」
「勇者君じゃなかったら、そう思うとこだけど……。分かった。他に謝る方法も思いつかないし、痛いのを我慢したら、勇者君が許してくれるなら、それで……。」
 ミスヴィスが勇者の膝に俯せになる。「お仕置きお願いします。」
「……勢いで言ってみたけど、恥ずかしくなってきた……。二人のこと、なるべく女性として意識しないようにしてきたし……。」
「そんな努力してたんだ……。あたしだって恥ずかしいよ……。こ・こんなちっちゃい子みたいな……。で・でも、いいの!」
「分かった。よ・よし、じゃあ……。」
 




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 お仕置きのお陰で反省しつつも、前よりも気楽になり、時々我が儘を言い叩かれるようになるミスヴィス。勇者もそんな彼女に呆れつつも、同じように気楽に接することが出来るようになった。
 そして。
 お尻叩きがあったと知ったマーフリナは、二人がぎくしゃくするのではと不安に思っていた。だが、実際はお仕置きがあったからこそ、何処か他人行儀だった気持ちの壁が取り払われたのだと知る。驚くもののこれから先、そんなんではやりにくいので安堵していたが……。
 二人の親密さが羨ましくなってきたマーフリナ。とはいえ、神に仕える身で、慎ましく生きてきた彼女はミスヴィスのような我が儘は思いつかない。どうしたらいいのか、分からない、




★★★★★★★★★★★★★★★★★★
 寝ながら思いついた話。その時はミスヴィスが開き直って勇者が叩いてたのに。変わったなぁw