ザンちゃんのブログ 師匠と弟子 パラレル4 エイラルソスの暴走

 宿屋の一室。魔王城を攻略中の勇者達は、体を休めていた。
「やっぱ魔王城は手強いよなー。」
 勇者が頭をかきながら言うと、
「じっくり攻略していくしかないよね。」
 ミスヴィスが苦笑いする。3人は、魔王城がある地のモンスターと対等に戦えるようになったので、中に入り込んでいた。だが、城を徘徊するモンスター達は更に強く、数回戦っただけで、MPを使い果たしてしまう有様だ。
「折角ここまで来たのですから、急いでわたし達が命を落とすなんてことがないようにしましょう。」
 マーフリナが真面目な顔で言う。
「だなー。」
 話す内容は重いが、ゆったりとした時間が流れていた。
 そこへ。
 バンッと大きな音がして、窓が開いた。勇者は剣を手にしてそちらを見ると……。箒に乗ったクロートゥルが飛び込んできた。、
「クロートゥル!?」「あんた、何やってんのよ?」 「クロートゥルさん!」
 驚いた3人が口々に漏らす。
「ああ、良かった。起きてた……。」
 箒から降りたクロートゥルがヘナヘナと座り込んだ。
「窓から飛び込んで来といて、起きてたもないだろ……。」
 勇者は呆れた。
「どうなさったんですか?」
 マーフリナの言葉に、クロートゥルが口を開きかけた。が、ミスヴィスが邪魔をする。
「……その前にさ、クロートゥル。あんたさ、何でそんな痣だらけなの?」
 ミスヴィスの言葉に、勇者とマーフリナはクロートゥルをじろじろと眺めた。魔法使いのローブを身にまとっている彼は、顔と手しか肌が出ている部分がないが、3箇所とも痣だらけだった。
「師匠にやられて……。」
「え、でも……。」
 マーフリナが困惑の表情を浮かべているが、それは勇者も同じだ。
「エイラルソスって、勇者君みたいに、お尻叩く人だよね。クロートゥルがぶたれてるの見たことあるし。」
 ミスヴィスの言葉に勇者は思いきり顔をしかめたが、事実なので何も言わなかった。確かに自分は二人を叩くこともあるが、そう頻繁ではないし、女性二人を守る男として、責任感があるだけなのにと不満に思いつつ。
「……うん。2回、見られたことあるよな。」
 1度目は外で偶然、目にした。2度目は、病に倒れたマーフリナを治す為の薬を貰う時に。エイラルソスに薬を持ってくるように命じられたクロートゥルは、あわやそれを落としそうになったので、勇者は慌てて彼と薬を受け止めた。大事な薬を駄目にする所だったクロートゥルは、エイラルソスにお尻を叩かれてしまっていた。ドジな俺にやらせる師匠が悪いと愚痴ったクロートゥルは、怒ったエイラルソスに下着も下ろされて叩かれ始めたので、勇者とミスヴィスは慌てて家を飛び出した。
 2回目を見ていないマーフリナは不思議そうな顔をしていたが、今大事なのはそこではないと判断したのか、黙っていた。賢明な彼女らしいと勇者は思う。
「なのに、どうして。」
 勇者は続きを促す。
「理由は分からないけど、殴られ始めた日のことはよく覚えてる。師匠は居間のソファに座って、本を読んでた。見た目が怖い感じの本だったから、気になった俺は師匠に声をかけたんだ。魔法には怖いものもあるんだろうなくらいの軽い気持ちで。本を読んでいる時に声をかけられると、イライラするのは分かってたんで、睨まれるくらいは覚悟してた。だけど、師匠の反応は、そんな生やさしいものじゃなかった。いきなり殴り飛ばされたんだ。」
 クロートゥルが頬を撫でた。「いくら非力な魔法使いとはいえレベル255の師匠に本気で殴られたら、俺は即死してしまう。だから手加減はしていたんだろう。でも、物凄く痛かった。歯が折れて、口から血が出た。痛みと驚きで呆然として倒れたままだった俺を、師匠はさらに蹴りつけてきた。」
「そんな……。」
「その日から師匠は、俺の相手をしてくれなくなった。声をかけると暴力を振われた。飯が出来た時以外の理由で声をかけると、殴る蹴るの暴行が始まる。魔法も教えてくれなくなった。」
「どうして、すぐに助けを求めなかったのですか?」
「そうだよ! 何で今なの。もっと早くわたし達に言ってくれれば良かった。」
「食材の買い物以外で、島の外に出るのを許してくれなくて……。全く構ってくれないのに、外に出るのだけはチェックされてて。買い物の時も、使い魔が俺を監視してて、逃げることも、助けを呼ぶことも出来なかった。」
 クロートゥルが俯く。
「じゃあ、今はどうして……。」
「ある日の夜、寝ていたら、物凄い悲鳴が聞こえて、俺は飛び起きた。地下室に魔法研究や魔法薬作成の為の場所があるんだけど、俺は立ち入り禁止になってた。レベルが低かった頃も立ち入り禁止だったけど、それはドジな俺が、危険な魔法薬をぶちまけて、怪我したりしないようにするためだった。でも、最近はそういった薬品の扱い方も学んでいて、師匠は、やっと俺に地下室の掃除をやらせることが出来るって笑ってた。なのに、人が変わってからは、また立ち入り禁止になった。」
「……。」
「悲鳴はそこから聞こえたと思った俺は、殴られるなんてことも忘れて、地下室に飛び込んだ。……旅をしている皆は、悲惨な光景も目にしたことがあるのかも知れない。魔王に滅ぼされた村や魔物に殺された人も見たことがあるのかも知れない。でも、元はただの村人で、基本的に師匠の監視下で町を巡っていただけの俺は、当然そんな光景は見たことなくて……。」
 クロートゥルが顔を歪めた。3人はそれだけで、何があったのか、察した。「俺は吐き、人体実験を見られた師匠は、俺にうんざりしたらしい。家事なら、メイドでも雇えばいいと言い出した。どうせだから、未熟な魔法使いで新たな実験をしようとも言われた。一般人とは違う結果が出るかもと嗤う師匠の顔は、もう、人じゃなかった。そこに居たのは、かつて師匠だった“もの”だったんだ。」
 クロートゥルが顔をしかめた。「あの人は、必死に逃げ出す俺を見て、嗤ってた。別にどうでも良かったらしい。」
  クロートゥルが俯く。
「……。」
 




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