ザンちゃんのブログ 師匠と弟子 前髪

 クロートゥルは、居間で本を読んでいるエイラルソスの側へ寄った。師匠は読書が趣味で、暇になると本を読んでいる。実際の経験があるのに、冒険譚が好きだそうだ。リアリティのないものでもあるものでも構わないそうで、よりクロートゥルは理解しがたい。が、今はそれは脇に置いておく。
「邪魔して悪いんですが、ちょっと質問いいですか?」
 エイラルソスが本を閉じた。
「ああ、いいぞ。何だ?」
 本を読んでいる最中に、声をかけられるのは苛立たしいものだが、師匠は特にそういう様子を見せたことがない。これは、俺に対してだけなのか、誰に対しても変わらないのだろうかとクロートゥルは思う。だが、とりあえずそれについても脇に置き、クロートゥルは口を開く。
「師匠は、顔の右側に前髪を垂らしているのが、前から気になっていて……。それって、師匠なりのお洒落なんですか?」
 エイラルソスは少し驚いた顔になったが、仕方ないなとクロートゥルは思う。本を読むのを邪魔してまで声をかける時、大抵はそんな些細な質問ではなく、邪魔するのに値するだけの出来事であることが多いからだ。
 一瞬、そんな事と馬鹿にされるかも知れないと考えたが、エイラルソスは、今話題の前髪に触れた。
「以前、話したことがあったかも知れないが……。昔のわたしは冒険者だった。」
 髪から手を離したエイラルソスは、立ったままのクロートゥルが気になるのか、ソファをポンポンと叩いた。隣に座るのを遠慮したクロートゥルは、師匠の向かいに座った。それから口を開く。
「はい、聞いたことがありますね。凡庸な大人になるのを嫌って、家を飛び出したんでしたっけ。」
「そうだ。魔法の才能があるなんて知らなかったので、安物の剣を片手に、モンスターと戦った。」
 エイラルソスが自嘲気味の笑顔を浮かべた。「魔法の才能があるのだから当然だが、剣の腕はからきしだった。同じくらいのレベルの冒険者が少しずつでも強くなっていくのに対して、わたしはいつまで経っても強くならない上に、レベルも上がりにくい。組んだ仲間に見捨てられ、一人でがむしゃらに戦っていた。」
 それは、威厳が有り、物静かな現在のエイラルソスからは想像しにくく、クロートゥルは顔をしかめた。
「うーん……。」
「わたしにだって、若い頃があったんだ。」
 唸るクロートゥルを見て、エイラルソスが苦笑いをする。
「そうなんでしょうけど。でも、どうしても想像しにくくて。若くても大人しい人は居ますし。」


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 強くならない自分に業を煮やしたエイラルソスは、強い魔物と戦って、死にかける。偶然通りかかった後の師匠に命を救われ、彼に弟子入りする。
 その時の怪我が傷として残ってしまい、人前に晒すと怖がられるので、隠しているという話。
 ちなみに目は無事だったので、見える。前髪に透視の魔法をかけてあり、両目で見ている。なので、隠れている方が死角ということは無い。

 小ネタあたりに書いた気がするなぁ。まあ、小説化したかったので。